リワークプログラムで職場復帰|種類、内容、費用を解説
リワークプログラムとは、うつ病をはじめとした精神疾患によって休職した方に向けた、職場復帰支援プログラムの事を指します。
この記事では、リワークプログラムの種類、内容、費用、利用する際の流れ、職場復帰時のフォロー体制などを解説します。
リワークプログラムとは職場復帰を目的としたプログラム
厚生労働省の統計によると、仕事に従事する中で、強いストレスや不安を感じる労働者は、約6割に上り、メンタルヘルス上の理由で連続1か月以上休業もしくは退職した労働者のいる事業所は、7.6%となっています(下図参照)。
心の健康問題は、働く人々にとっても、雇用する事業所にとっても、大きな課題となっています。
メンタルヘルス上の理由により休業もしくは退職した労働者の有無 画像出典:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-1.pdf
円滑な職場復帰のための支援には、どのような種類があるか、その内容などを解説します。
リワークプログラムは職場復帰支援を指す
リワークとは、うつ病などの心の低下、精神疾患によって休職した人に向けた、職場復帰支援プログラムの事です。
リワークは、「return to work」を略した言葉で、returnは「戻る」、workは「仕事」ですので、「仕事に戻る」=「職場復帰する」という意味で使用されます。
リワークプログラムを実施する場所は大きく分けて4つ
リワクークプログラムの実施場所は、現在の所、大きく分けて4種類あります。
- 医療リワーク:精神科クリニックなど医療機関が主催
- 福祉リワーク:就労移行支援事業所が主催
- 職リハリワーク:地域障害者職業センターが主催
- 職場リワーク:企業が主催
それぞれの特徴を一覧にします。
リワーク種類 | 実施機関 | 主な目的 | 対象者 | 条件 | 費用 |
---|---|---|---|---|---|
医療リワーク | 精神科クリニックなど医療機関 | 精神科治療/再休職予防 | 休職者のみ | かかりつけ医である必要 | 自立支援医療受給者証の上限額(※1) |
福祉リワーク | 就労移行支援事業所 | 復職後のフォロー含む支援 | 診断書 | 休職者/退職者 | 無料~4万円弱(※2) |
職リハリワーク | 地域障害者職業センター | 支援プランに基づく支援 | 診断書 | 休職者のみ | 無料 |
職場リワーク | 所属企業 | 労働可能かの見極め | 診断書 | 休職者のみ | 無料 |
※1自立支援医療受給者の支払い上限額は、所得により変動します。
※2費用は前年度所得により変動します。
医療機関でのリワーク:医療リワーク
病院やクリニックで行うリワークプログラムです。
精神科デイケア等と呼ばれ、通院する医療機関で、休職につながった症状を踏まえたリワークを行っていきます。
心理面のフォローが専門家によって行われるので、安心して参加する事ができます。
費用は保険適用となり、自立支援医療制度という制度も利用可能です。
医療リワークを希望するものの、かかりつけ医でリワークに対応していない場合、対応のある医療機関に転院が必要となる場合があります。
主治医ときちんと相談し、リワーク先を選定する必要があります。
就労移行支援事業所でのリワーク:福祉リワーク
民間の就労移行支援、自立訓練などによるリワークプログラムです。
本来、就労移行支援事業所は、障害のある方を対象に、就職支援を行う事業所です。
精神障害、精神疾患患者に限定して支援を行う事業所では、リワークを受ける事が可能となっています。
休職者のみでなく、退職者もリワークプログラムの対象としています。
事業所によって、プログラム内容の特色が異なるので、自分に適したリワークプログラムがあるかどうか、見極める必要があります。
就労移行支援事業所でのリワークは、無料体験が可能なので、実際に体験してみてから利用をするか否か、検討する事ができます。
就労移行支援事業所でのリワークは、職場に復帰後の職場定着支援など、フォロー体勢の幅広さも特徴の一つです。
地域障害者職業センターでのリワーク:職リハリワーク
都道府県に設置されている、地域障害者職業センターで行われるリワークプログラムです。
公的な機関であるため、無料でリワークプログラムに参加する事ができます。
リワークの対象が、休業している本人のみでなく、雇用先の企業も含まれています。
雇用先へ、公的な機関からも働きかけがあるので、企業サイドの理解向上にも繋がります。
リワークのプランは、センターのコーディネーターが、休業者、主治医、雇用者と連携して作成していきます。
プログラム内容の主な狙いは、「病気の治療」ではなく、「職場への適応」がメインとなっています。
企業内でのリワーク:職場リワーク
企業内で行われるリワークプログラムです。
- 企業内の医療機関や、専門部署
- 「EAP(従業員支援プログラム)」サービス(※) ※厚生労働省の定める、メンタルヘルス対策のうちのひとつ
などで実施されます。
休業者が所属している企業が、職場リワークを実施している場合に利用できます。
費用は原則として企業が負担するので、休業者自身の負担はありません。
職場リワークでは、安定して業務にあたる事が可能になったかどうかの見極めが、リワークプログラムの目的となります。
リワークプログラムではストレスへの対処法を学ぶ
リワークプログラムで行う内容は、実施する施設により異なりますが、職場復帰を目指して行うという大きな目的は同じになります。
ここでは、リワークプログラムで行われる、具体的な内容の一例を解説します。
生活リズムの整え
職場復帰にあたって重要な事は、整った生活リズムで毎日を送る事です。
リワークプログラムに通うのにも、心身の復調が必要です。
- 起床、就寝
- 食事
の基本を日々、一定時刻に行えるよう整えていきます。
リワークのプレ期間として、病気についての講義を受ける、同じ病気の人々と交流する等の取り組みに、毎日同じ時間に参加し、本格的なリワークプログラムに向けての体力・気力を取り戻していきます。
キャリアデザイン
職場復帰後に、どのように働いていきたいかを考えていきます。
自分がこれまでにどのようなキャリアを積んできたかの振り返り、仕事と私生活のバランスの再考などを行います。
自己分析(セルフケア)
自分がストレスを感じやすい要因、状況などを、講義形式で自己分析していきます。
自分を知る事で、ストレス要因に対峙した際の対処法や、セルフケアの行い方、対策方法を考える事がで出来るようになります。
認知行動療法
認知とは、物事の捉え方を指します。
認知行動療法は、本人の物事の捉え方、考え方のクセなどを分析し、別角度からの認知を見つけていきます。
新しい物事の捉え方を身に着け、ストレスに対処できる、自己分析力を高めらる事を目指します。
個人プログラム
文字や数字、文章など、机上での作業を1人で行います。
集中力や、作業能力の確認、向上を目的として行われます。
オフィストレーニング
オフィスに近い環境で、資格の勉強や資料作成などを行います。
休職して低下した集中力や、継続力の回復を目的として行われます。
グループトレーニング
ディスカッション、プレゼンテーションなどをグループで行い、コミュニケーション能力の回復、向上を目指します。
他のリワーク参加者との交流で、様々な状況や考え方に触れる機会にもなっています。
リワークプログラムを利用するまでの流れ
ここでは、リワークプログラムの利用方法を解説します。
職場復帰支援の全体像
心の不調などで休業を検討、開始してすぐにリワークプログラムに参加する訳ではなく、その前後、
- リワークプログラムに参加できるだけの心身に整ったかどうか
- リワークプログラム参加後、職場復帰可能かの検討
- 職場復帰後のフォロー期間
と、休業から職場復帰の道のりは様々な段階があります。
職場復帰支援の全体像は、以下の図のようになっています。
心身の安定と継続した勤務に向けて、その流れの1つとして、リワークプログラムが存在しています。 画像出典:厚生労働省「~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~
改訂・心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-1.pdf
リワークプログラムの利用方法・流れ
かかりつけ医に相談
リワークプログラムに通える体調、心境になったら、主治医に相談し、リワークが利用可能か否か、判断を仰ぎましょう。
利用可能の判断が出たのち、通うリワークプログラム施設の検討を開始しましょう。
主治医のほかにも、保健師、勤務先の人事担当者などとも相談して、候補先を検討するのも方法の一つです。
使用するリワーク先の選定
- 自宅から通いやすい
- 自分に合ったプログラムを行っている
などのポイントを踏まえて、利用する施設を選びましょう。
利用手続き
利用する施設によって、必要な手続きや書類は異なります。
手続きに際して、医師や企業側と連携してのプラン作成などを行う事もあります。
施設側で利用手続きを行われる場合がほとんどですので、伝えられた必要書類を準備、提出しましょう。
リワークプログラムに参加する
手続きが完了すると、実際にプログラムへの参加が始まります。
リワークの内容や施設との相性などもあるので、疑問点や、自分の抱える問題と合わないなどの困り事を感じたら、かかりつけ医や産業医、企業側と、その後の方針を相談しましょう。
1人で悩まずに、専門家に相談する事が重要となります。
リワークプログラムに通う期間はおおよそ3~8か月程度
リワークプログラムにかかる期間は、実施機関やその人の状態によって変動がありますが、おおよそ3~8か月ほどとなっています。
日本うつ病リワーク協会によると、医療機関によるリワークプログラムの参加機関は、 「短いもので数週間~長いものは年単位のプログラム参加。平均は3か月~7か月ほど。」とあります。
厚生労働省の「改訂・心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にあるリワーク支援プログラムを経た後復職した事例では、リワーク支援実施期間は、3か月となっています。 事例:
30代、男性、営業職
- 仕事に従事中に不調をきたし、うつ病の診断が出た。
- 抗うつ剤と睡眠薬を併用しつつ、うつ病の診断が出た後も1か月、勤務を続けたものの、状態の改善が見られず。
- 主治医に相談して、休業の診断書を出し、本格的に休業。
- 休業から3か月後、不眠、抑うつ、食欲不振などの症状がほぼ無くなった。 休業中も、定期的に面談を行っていた産業医が、復職に向けて準備をする時期であると判断。
産業医から、復帰に向けて、主治医とリワークプログラムを利用する事を相談するように指示。 - リワーク支援に3か月通う。定期的にセンターに通い、ストレスに関する教育や、認知行動療法などのプログラムを受けた。
リワーク支援に通う中で、規則正しい生活になった事、同じ悩みを抱える人々と話す機会を得た事などが、症状の改善に役立った。 - リワークプログラム終了後、本人、産業医、保健師、人事担当者、上司が一同に会して、復職に向けての具体的段取りを話し合い、職場復帰支援プランを作成。
- 職場復帰支援プラン実行中は、月1回は産業医および保健師と面接。その面接と面接の合間には、2週間に1回保健師の面接を実施。 上司は毎週1回は面接を行い、業務負荷や体調の把握。
- 復職後6か月経過後、特段の問題が無かったので通常勤務に戻る。 定期的な面接は終了となり、その後は健康診断などの機会にフォローする事とした。
上記事例のように、リワークプログラムを実施する期間以外にも、その前後に主治医や専門家、職場との面接・フォローなどの期間も必要となるので、じっくりと取り組む事となります。
画像出典:厚生労働省「~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~
改訂・心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-1.pdf
リワークプログラム中の給与は原則支払われない
ここでは、リワークプログラム実施中の給与はどうなるのかを解説します。
休職期間中なので原則、給与は出ない
リワークプログラム実施中は休職中であるため、原則として通常通りの給与は支給されません。
休職中に適応される手当は、「傷病手当」というものになります。
ここで注意したいのが、「傷病手当の最大受給期間」です。
傷病手当の最大受給期間は、1年6か月となっています。
出来るだけその期間内にリワークプログラムを終了させ、職場への復帰を目指すのが、標準となります。
復帰の前段階「試し出勤」制度のある企業も
正式な職場復帰決定の前に、「試し出勤制度」を利用できる企業もあります。
休業していた勤務者の不安軽減、職場状況の確認や把握をしながら、復帰準備を行う事が目的です。
試し出勤制度の例 | 内容 |
---|---|
模擬出勤 | 通常の勤務時間と同じ時間帯に、デイケアなどで模擬的な軽作業を行う、 図書館で時間を過ごす等行う。 |
通勤訓練 | 自宅から勤務職場付近まで、通勤経路で移動する。 その後、職場付近で一定時間を過し、帰宅する。一連の模擬通勤を実施する。 |
試し出勤 | 元の職場に一定期間、継続して出勤する。職場復帰が可能かを見る目的も含む。 |
試し出勤で業務にあたると傷病手当の対象からは外れる
試し出勤の際の給与については、注意が必要です。
- 試し出勤時、業務に従事している時以外は、賃金は発生しない
- 業務に従事した場合、傷病手当の支給はストップになる
試し出勤制度を導入する際、処遇や労災の対応、人事管理上の位置づけなどを検討した上で実施する必要があります。
試し出勤の内容や給与はどのようになるかは、会社側と充分に確認し合い、決定しましょう。
リワークプログラム後の職場復帰可否の判断基準
職場復帰が可能かどうかについての判断は、休業した方それぞれのケースによって、総合的な判断が必要である、と厚生労働省も述べています。
ここでは、厚生労働省が提示する、職場復帰の判断基準の例を紹介します。
職場復帰・判断基準の例
- 休職者本人が、復帰に対して充分に意欲を持っている
- 復帰者本人1人で、通勤時間帯に安全に通勤出来る
- 決まった勤務日、時間に、継続した就労が可能である
- 業務に必要な作業が実行できる
- 就労による疲労を、翌日までに充分回復する事が可能
- 適切な睡眠、覚醒の生活リズムが整っている
- 昼間に眠くならない
- 注意力、および集中力が回復しており、業務を遂行できる
など
復帰可能と判断されたら「職場復帰支援プラン」を作成する
職場復帰が可能、と判断されたら、職場復帰支援プランを作成していきます。
プラン項目 | 内容 |
---|---|
職場復帰日 | 職場への通勤を開始する日時の決定 |
就業上の配慮 | 職場の上司(管理監督者)による業務サポートの内容や方法 業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必要な配慮など |
人事労務管理上の対応など | 配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の必要性などを検討する |
医学的見地から見た意見 | 産業医師などによる、安全配慮義務に関する助言、職場復帰支援に関する意見など |
フォローアップの方法決定 | 上司や産業保健スタッフ等によるフォローの方法、 就業制限等の見直しタイミング、 就業上の配慮や医学的観察が不要となる時期の見通しなど |
その他 | 試し出勤制度の利用などの検討 |
職場復帰支援プランの元、最終的な職場復帰を決定
前出の職場復帰支援プランを踏まえ、事業者による最終的な職場復帰の決定を行います。
職場復帰後のフォローアップ
職場に復帰した後も、状況を見てのフォローを行います。
職場の上司、同僚、産業医、主治医などと連携し、健やかな勤務環境を目指して、復帰者本人を含め、各方面から取り組んで行きます。
周囲と連携してリワークプログラムを利用しましょう
人によって、勤務内容や心身の疲労の度合は異なるものです。
不調を感じたら、1人で悩まずに、産業医や主治医などに相談して、復調を目指しましょう。
状況や心身の様子により、適したリワークプログラム、また、実施のタイミングは異なるものです。
そして、制度の改定などにより、利用できる手当や制度・仕組みが変更になる場合もあります。
ぜひ専門家に相談しながら、職場、家族など周囲の人の理解・協力も得ながら職場復帰を進めましょう。
参考文献
厚生労働省「~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~
改訂・心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-1.pdf
一般社団法人・日本うつ病リワーク協会
https://www.utsu-rework.org/rework/