親が認知症になったらやるべき・知るべき事、対策、介護
高齢化が進み、親が認知症になるケースも増加しています。
認知症も、他の疾患と同様、早期発見と対策が重要となります。
しかし、認知症の状態はその人ごとに様々。
そして、加齢による機能の衰えなのか、認知症によるものなのか、判別が難しいのも対策の遅れなどに繋がっています。
この記事では、親が認知症かもしれないと感じる初期症状や、早めの対策をするメリット、相談先、知っておきたい相続対策などを解説します。
親が認知症かも?と感じる初期症状
認知症は、本人の自覚が難しいものです。家族や親しい周辺の人が、今までの言動との違和感から先に気づく事が多いです。
ここでは、認知症の初期症状の代表的なものを解説します。
初期症状を知る事で、早期発見につながります。
- もの忘れが多くなった
- 場所や時間がわからない
- 理解力、判断力の低下
- 怒りっぽくなる等の感情の起伏が激しくなる
- 作業に集中できない
もの忘れが多くなった
認知症でのもの忘れは、「日常生活の物事自体を忘れる」という特徴があります。
例えば、「食事をしたかどうかが分からない」、「友人が誰か分からない」などです。
認知症ではないもの忘れの場合は、「食事の内容が何だったかが思い出せない」、「友人の名前がぱっと出てこない」などになります。
場所や時間がわからない
認知症は、変化のある事から分かりづらくなると言われています。
例えば、「今日の日付」、「自分の年齢」、「約束自体を忘れる」などです。
会話をする中で、時間や日付などで違和感を感じた場合、認知症の可能性を考慮する必要があります。
理解力、判断力の低下
日々の生活への影響が大きくなる理解力や判断力の低下。以下のような状態、行動が見られます。
- 見聞きした事に対して、すぐに反応が出来ない
- 簡単な計算ができなくなる
- 状況に応じた行動が取れなくなる(車道へ走って行ってしまう、靴の脱ぎ着をしない他)
状況判断力が低下すると、事故につながる恐れも。
これらの症状が見受けられた場合は、誰かの付き添いのもと外出をする等の対策が必要になります。
怒りっぽくなる等の感情の起伏が激しくなる
怒りやすくなる、急に泣き出す等、感情の起伏が以前より激しくなるケースがあります。
このような変化は「感情失禁」と呼ばれます。
抑うつ状態や意欲の低下などが見られる場合もあります。
感情失禁によって、家族や介護者を含む周囲の人々への暴言、暴力などのトラブルが起こる事も。
作業に集中できない
- テレビや映画の内容を追えなくなる
- 本や新聞を読み終えられない
- 部屋の片付けが進まなくなる
など、作業能力の低下や集中力の途切れなどが現れるケースがあります。
以前は出来ていた家事ができない、家が雑然としている等の変化があった場合は、認知症初期の可能性があります。
親の認知症は放置せず早めに医療機関へ
生活に大きな支障が無いから、本人が嫌がるから等で、親が認知症かもしれないと思いつつも、対策をせずに放置してしまうケースがあります。
ですが、認知症の初期段階を感じながらも、対策をせずに過ごしてしまうのは、様々なリスクを伴います。
早い段階で治療や対策を始めていたら、親本人も家族も、もっと自分らしく、楽に過ごせる可能性も高まります。
ここでは、親の認知症を放置する事のリスクを解説します。
リスクを知る事で、早めに対策をするメリットがわかります。
生活習慣病など、別の病気になるリスクが高まる
認知症によるもの忘れの症状などで、
- 服用中の薬の管理が難しくなる(飲み忘れ、服薬量を間違うなど)
- 食生活の管理が難しくなり、生活習慣病に繋がる可能性が高まる
などの事から、健康への影響が心配されます。
事故、行方不明の可能性が高くなる
認知症により、場所や時間の把握が難しくなると、よく知っているはずの道でも迷ってしまうケースも発生する場合があります。
- 迷子になり外出時間が長引いた事による脱水症状、低体温症になる恐れ
- 自宅へ戻れず、行方不明になる恐れ
- 信号無視や交通ルールの理解力低下による事故の恐れ
- 車の運転中に混乱をきたし、加害者サイドになる恐れ
預金、契約、不動産などのトラブル
認知症が進行し、判断能力が無くなったとされると、親名義の預貯金の引き出しが不可となり、生活費・介護費用に困る事も。
重度の認知症となると、親名義の不動産の売却が不可となります。
親が介護施設へと入居して、空き家になった家を売却したい場合に、子が実家を売却する事は出来ません。
遺産、相続関連のトラブル
認知症が進行して判断能力が低下、無くしてしまうと、遺産相続の協議への参加が出来ない、契約でのトラブルの増加などのリスクが高まります。
- 判断能力の低下で、不要な物を大量に購入する、契約をする
- 高齢者狙いの詐欺に巻き込まれる
- 遺産分割協議への参加が無効になる
- 相続放棄の決断などができなくなる
相続はとても大きな問題です。
親本人の意思がきちんと示せる、法的にも有効である内に、今後の方針を話し合えるとベストです。
親が認知症かもと思ったら相談、受診する機関
認知症かもしれないと感じたら、早めに医療機関などの専門家へ相談しましょう。
本人以外の家族だけでも、まずはどこに相談をすればよいか、役所で情報収集をする等の行動が取れます。
全国軽度認知症ご家族支援センター
全国軽度認知症ご家族支援センターは、ご家族の気持ちに寄り添い、認知症の症状に合わせたサポート制度をご紹介してくれる機関です。
- 「もしかして」と思う言動が増えた
- 物忘れがひどく日常に支障が出ている
- 認知症と診断されたがどうしていいか分からない
など、認知症にまつわるさまざまな悩みを話すことができ、それぞれのケースごとに対処法や利用できる制度を紹介してくれます。
相談料は無料です。
電話だけでなく、チャットやLINEでもやり取りをすることができます。
対応してくれる方も認知症に関して豊富な知識を持つスタッフなので、状況に合わせて、「やさしく・わかりやすく」対処法を教えてくれます。
「長谷川式簡易知能評価スケール」の第一人者であり、精神科専門医の長谷川洋医師が監修を務めているので、信頼性の高い対処法を知ることができます。
認知症について悩んだ時、この記事を読んでいるあなたのように、まずは自分で対処してみようと考えるでしょう。
しかし、自分だけの力ではどうしても解決しない問題はあります。
実は、認知症の症状に気がついてから初めて医療機関に相談するまで、半数以上の人が6ヶ月以上かかっています。
- 変化は年齢によるものだと思っていた
- 本人に受診を言い出せなかった
- どの医療期間を受診すればよいかわからなかった
など、理由はさまざまですが、「人に悩みを相談する」ということは、悩みが深刻なほど勇気が要ります。
友人や家族、同僚へ相談しようか、悩んでいるうちに、解決はどんどん難しくなることもあります。
気づけば問題はさらに大きく膨れ上がり、どうしようもない状況になってしまうこともあります。
一人で抱えたまま時間を過ごしていると、できない自分を責めたり、我慢すればなんとかなると、無理を続けてしまいます。
すると、いつか必ず限界を迎えて、心や身体を壊してしまいます。
目の前の課題を解決するには、まずは健康な心身のエネルギーが必要です。
心のエネルギーを回復するためには、「ただ、話を聞いてもらう」だけの時間も、とても大切です。
全国軽度認知症ご家族支援センターは、認知症のことならなんでも相談したくなるような、温かい場所です。
まだ正常な判断できて、問題が大きくならないうちに、相談してみてください。
かかりつけ医
いつも診てもらっているかかりつけ医がある場合、相談してみましょう。
これまでの病歴や体質、本人の性格なども知っているかかりつけ医であれば、本人も家族も、安心して具体的に相談する事が可能です。
更に専門的な検査や診察が必要と判断された場合、更に専門医療機関を紹介してもらう事も可能なので、少しでも気になる事は、何でも相談しましょう。
専門医療機関(認知症疾患医療センター、認知症専門医、認知症サポート医)
認知症の専門科を有している病院、認知症専門医やサポート医が在籍してる病院を調べ、受診しましょう。
「もの忘れ外来」として診察、検査などを行っている病院もあります。
住まいの近くに該当する病院があるかを検索できる「全国もの忘れ外来一覧」等も参考になります。
公益社団法人 認知症の人と家族の会「全国もの忘れ外来一覧」
https://www.alzheimer.or.jp/?page_id=2825
地域包括支援センター
認知症の診察、介護相談、その他にも気を付けたい事など、認知症という症状の多様さから、「最初の一歩をどうしたら良いか」というスタートから迷うという方も多く見受けられます。
そんな時は、地域に根ざして相談できる、「地域包括支援センター」に相談しましょう。
市区町村の役所、福祉センターなど、公的な窓口で相談したい旨を伝えて、適した担当部署、サービスと連携を取っていきましょう。
地域包括支援センターは、地域によって「高齢者サポートセンター」、「シニアサポート センター」など、異なる名称の場合もあります。
「認知症ケアパス」をもらう
「認知症ケアパス」と呼ばれる、認知症の人の状態に応じた、適切なサービス提供の流れをまとめたものがあります。
市町村ごと、地域の実情に応じてまとめられているものなので、より身近で具体的な方針が固められます。
「認知症ケアパス」は、住んでいる地域の「高齢者福祉担当部局」や「地域包括支援センター」等に問い合わせましょう。
画像出典:厚生労働省「認知症ケアパス」
https://www.mhlw.go.jp/content/000686391.pdf
※「認知症ケアパス」未作成の市町村もあります。
2019年(令和元年度)の作成状況調査では、全国の作成率は85.5%(1,488市町村)
電話相談もあります
「公益社団法人 認知症の人と家族の会」による、電話相談窓口もあります。
フリーダイヤルや、携帯電話用の番号も用意されています。
全国47か所の支部でも電話相談を受け付けています。
認知症に関する質問、介護方法、介護のグチ、悩みなど、幅広く経験者※に相談する事ができます。
※研修を受けた介護経験者
公益社団法人 認知症の人と家族の会「電話相談」
https://www.alzheimer.or.jp/?page_id=146
親が認知症の診察や受診を嫌がる場合の対策例
もの忘れがひどくなり、認知症の初期症状かもと思っても、本人は「どこも悪くない」「ぼけてない」と認めたがらず、医療機関の受診を断るケースが多々見受けられます。
- どうして受診したくないか、理由を聞き、「認知症の方本人の気持ちを受け止めた上で心配している」、「進行を遅らせるよう協力したい」と伝える
- 治療で改善する場合もある事、介護サービスを受けやすくなる等、早期に受診するメリットを説明する
- 家族のみで医療機関に相談して、認知症の方本人が信頼しているかかりつけ医から受診を勧めてもらう
- すぐに受診ができなくても焦らずに、地域包括支援センターに相談する
- 訪問診療で対応してもらう
など、様々な対応策を取る事ができます。
いずれにせよ、強引に受診を勧めるのではなく、親本人の気持ちを酌み、段階を踏む事が重要です。
言葉では認知症を否定していても、自覚があり不安になっている、正式な診断がついてしまうのが怖い等の気持ちの問題を抱えている場合もあります。
本人の気持ちに寄り添う事が大切です。
親が認知症かもと感じたら・知っておきたい相続対策
親が認知症になる事で、生活や治療の進め方も気になりますが、財産管理・相続関連についても、対策を進めておきたい重要事項となります。
親の認知症が進んで「本人の判断能力が無くなっている」とみなされると、財産の凍結、相続対策の協議なども無効になってしまうためです。
取る事のできる対策は様々にありますが、ここでは主な4つの対策を解説します。
認知症ではなかった場合でも、財産にかかわる事はとてもデリケートな話題。
親本人の気持ちを第一に、「親自身を守るため」という事中心に進めましょう。
家族信託
「家族信託」とは、親自身が元気で意思を明確に示せるうちに、信頼できる家族に財産管理などを託す制度です。
親と家族の間で信託契約を結び、その契約の範囲内で、受託者(親と契約した家族)が財産管理や運用をしていきます。
家族信託をしておけば、親の認知症が進行しても、受託者(親と契約した家族)が財産管理を行う事が可能です。
受託者(親と契約した家族)の判断で行える事の例
- 親の預貯金の入出金
- 受託者の判断での親の自宅のリフォーム(バリアフリー等)
- 受託者の判断での親の自宅の売却
「家族信託」は、受託者(親と契約した家族)が財産管理を行いやしすい事が最大のメリットです。
親の介護費用、施設への入居費用の捻出などがしやすくなるため、経済的な心配が軽減されます。
成年後見制度
認知症や知的障がいによって、判断能力が充分でない方の不利益を回避するためにある制度が「成年後見制度」です。
「成年後見制度」では、「成年後見人」が親本人に代わって、適切な契約行為、財産管理を行います。
「成年後見制度」には2種類あり、違いがあります。
制度の名称 | 親の認知症進行度 | 後見人 | 選任方法 |
---|---|---|---|
法定後見制度 | すでに判断能力が不十分 | 法定後見人 | 家庭裁判所が選任。判断能力の程度にあわせ、成年後見人、保佐人、補助人が選任される。 |
任意後見制度 | まだ元気ではあるが将来が心配 | 任意後見人 | 親本人が後見人を指名して契約する。 |
成年後見人は、本人の日々の生活にも気を付けて保護、支援する事が役目となります。
- 預貯金の管理
- 不動産の管理
- 本人の希望や身体の状態などを考慮した上で、適した医療や介護サービスが受けられるように、契約や締結、費用の支払いなどを行う
一般的に、実際の介護(食事などの日々の補助)は、成年後見人の役割の範疇ではありません。
成年後見制度を利用したほうが良い状態は、以下の通りです。
- 財産管理が心配な際(詐欺被害や親族による財産の使い込みなどを防ぐ)
- 親本人のみで、必要な契約や手続きが困難な場合
成年後見人の種によって、出来る事できない事の範囲があるので、本人や家族に適した後見制度はどれなのか、検討や相談を専門家とされると良いでしょう。
遺言書作成
親が軽度の認知症であった場合、本人の希望で自分の財産を継ぐ相手を指定可能です。
現金や土地などの財産は、特に遺言状が無い場合は、法の定めに該当する相続人で均等に分配されますが、遺言状を作成すれば、相続人ごとの分配量の指定なども可能です。
法的に有効な遺言状の作成は、書式の定めがあります。
不備のないように作成するためには、判断能力が必要となります。
親自身が作成するにしても、弁護士や司法書士といった専門家に依頼するにしても、認知症の進行度が悪化した状態では、無効となってしまいます。
生前贈与
親が生前に、子供に財産を贈与しておく事を指します。
生前贈与では、「贈与された側」に「贈与税」がかかります。
毎年110万円までであれば、贈与税はかかりません。
生前贈与も、親が重度の認知症となった場合は利用できません。
※税制は変更になる場合がございます。
実際に対策をされる際は、弁護士や司法書士などの専門家へご相談ください。
まとめ・早めの認知症対策は、親本人と家族を守る
親が認知症になったかもしれない、と感じたら、親自身も家族も不安なものです。
ですが、不安なままで放置をせず、早めの受診を心がけるなどの対策を取り、足元を固めていきましょう。
認知症にも沢山の種類、進行度があり、早期発見や治療を行う事で、改善する可能性や進行をゆっくりにする可能性を広げられます。
認知症対策は、親本人を守るためである事を伝え、一緒に将来へのあゆみを進めましょう。 そのためには、どんな相談先があるか、利用できる制度やサービスは等、「知る」事が重要です。
お世話や介護をする家族の息抜きも大切です。話や相談が気負いなく出来る「認知症カフェ」も、地域で開催されています。
ぜひ、抱え込まずに多くの人を頼って、親の認知症に備え、対策していきましょう。
参考文献
厚生労働省「認知症施策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/
社会福祉法人 東北福祉会・認知症介護研究・研修仙台センター 社「もしも 気になるようでしたらお読みください」
https://www.mhlw.go.jp/content/000521036.pdf