塩分過多はなぜいけないの? 塩分の取り過ぎを防ぐ食事や対処法
目次
塩分にはどんな役割がある?
私たちの身体には、常に一定の割合で塩分が含まれています。塩分は体内で多くの役割を果たしており、生命維持に不可欠な存在です。
役割の1つとして、細胞の正常維持があります。塩分が少な過ぎたり多過ぎたりすると、細胞のバランスが崩れてしまいます。すると、循環不全や血圧低下、脱水症状、ショック症状、立ちくらみなど、さまざまな症状を引き起こす恐れがあるのです。新陳代謝も低下するため、肌への影響も深刻です。
ほかにも神経や筋肉の動きを調整したり、身体が酸性になるのを防いだり、消化と吸収を助けるなど、さまざまな役割を果たしています。一定の割合の塩分を維持することで、私たちは健康に過ごせているのです。
日本人は塩分を取り過ぎている
日本人は塩分を取り過ぎているといわれています。平成30年国民健康・栄養調査結果によると、日本人の1日あたりの塩分摂取量は、男性が10.9g・女性が9.3gと報告されています。しかし、厚生労働省が推進する1日あたりの食塩摂取量の目標値は、男性が7.5g未満・女性が6.5g未満です。つまり、食塩摂取量の目標値よりも毎日約3gの塩分を多く摂取しているということになります。さらに、高血圧の予防・治療を兼ねるのであれば、食塩摂取量は1日6g未満が望ましいといわれています。
では、世界に目を向けてみましょう。WHO(世界保健機関)は成人に対し、1日あたりの食塩摂取量を5g未満と、強く推奨しています。日本よりもさらに厳しく設定しているのは明らかです。そもそも日本は基準が高いにも関わらず、基準値を超えているといった点からも、日本人は塩分を取り過ぎているといわれても仕方ないでしょう。
どうして塩分過多な食事になりがちなの?
日本食は欧米の食事に比べると、動物性の脂質が少ないためヘルシーな傾向にあります。健康なイメージがありがちですが、日本食には塩分を多く含む調味料や加工食品がたくさんあるため注意が必要です。
例えば、味噌や醤油などは、日本食に欠かせない調味料です。それぞれに含まれる小さじ1杯あたりの塩分量は、味噌が0.7gで、醤油が1.0gといわれています。また、保存食として昔から馴染みのある梅干しや漬物といった加工食品にも多くの塩分が含まれています。味噌汁や煮物、漬物などを食べることの多い日本人にとっては、塩分過多な食事になるのも納得できるでしょう。
さらに、これらの食習慣に加え、カップ麺や惣菜などの利用増加、外食する機会が増えたことも塩分過多につながった要因の1つと考えられています。
塩分過多と病気の関係
塩分を取り過ぎると、以下のような症状や病気を招く恐れがあります。
- むくみ
- 高血圧
- 腎臓病
- 骨粗鬆症
- 尿路結石
- 胃がん
生命に関わる危険性もあります。塩分過多との関係について解説するので、それぞれチェックしてみてください。
むくみ
塩分を過剰摂取すると、塩分の主成分「ナトリウム」の血中濃度が高まります。身体にはナトリウムをすぐに体外へと排出する機能がないため、喉が乾きます。お寿司やラーメンなどを食べた後に喉が異常に乾く、といった経験がある人も少なくないでしょう。水分を多く取ることで、血液のナトリウム濃度を薄めようとするのです。しかし、この作用はむくみを引き起こす原因になります。水分を多く摂取したことで体液が増え、身体のむくみにつながるのです。
高血圧
そもそも血圧とは、心臓から送り出された血液が、血管内を通るときにかかる圧力のことです。水道のホースで例えると、水をたくさんを流したホースには高い水圧がかかり、張り詰めた状態になります。また、ホースの途中を押さえると、水流が弱くても押さえている部分より後ろは張り詰めた状態になります。人の身体も同様で、心臓が送り出す血液の量が多く、血液が通りにくくなると血圧は上がるのです。
塩分を取り過ぎると喉が渇き、水をたくさん飲みます。水分量が増えた体内では血液が多く作られ、血管にかかる圧力が高くなります。塩分過多が続き、慢性的な高血圧となれば、動脈硬化・腎不全・脳出血・脳梗塞・くも膜下出血・脳卒中・ 心筋梗塞・網膜症などの疾患につながりかねません。最悪、死に至る場合もあるので、注意が必要です。
腎臓病
体内にある余分なナトリウム(塩分)を排泄するのは腎臓の役割です。腎臓は塩分や老廃物をろ過して排泄する機能があるため、塩分を過剰に摂取すると、腎臓に大きな負担がかかり疲弊します。塩分の過剰摂取が続けば、腎臓の機能が慢性的に低下し、「慢性腎臓病(CKD)」を発症する可能性があるのです。腎臓がある程度まで悪くなると自然に回復するのは困難です。透析療法や腎臓移植が必要になる可能性もあるでしょう。
骨粗鬆症
塩分を取り過ぎると、カルシウムの排出量が増えます。その結果、骨からカルシウムが溶け出し、骨粗鬆症を引き起こしてしまうのです。骨がもろくなり、骨折するリスクを高めます。加えて、カルシウムには血液中のナトリウムを体外へ排出する役割があり、カルシウム不足に陥ることで血液のナトリウム濃度が上がり血圧を高める、といった影響が及ぶ恐れもあります。
尿路結石
塩分を多く摂取すると、カルシウムの排出量が増え、結石が作られやすくなります。余分な塩分は尿中のカルシウム濃度を上げるため、尿の通り道に「尿路結石」ができやすくなるのです。尿が出にくくなったり痛みを伴ったり、細菌感染を起こせば命にかかわる可能性もあります。
胃がん
塩分過多に陥ると、胃がんの発症リスクを高めることがあります。塩分が多い食事は胃の中の塩分濃度を上げ、胃の粘膜を保護する粘液を剥がします。胃の粘膜はダメージを受けやすい状態になり、炎症が起き、発がん性物質の影響を受けやすくなることが胃がんにつながると考えられているのです。
さらに、ヘリコバクター・ピロリに感染している人は、胃がんの発症リスクがより高くなる傾向にあります。ピロリ菌は子供の頃に感染しやすいこと、衛生環境が不十分だった頃に多く存在していたことを考えると、60代以降の方は特に注意したほうがよいでしょう。
減塩生活を始める前に知っておきたいのが、「1日あたりの塩分摂取量の目標値」です。1日にどのくらいの塩分を摂取してよいのか、以下の表で確認しておきましょう。
ガイドライン・対象者 |
1日あたりの塩分摂取量の目標値(成人) |
厚生労働省による日本人の食事摂取基準 |
男性:7.5g未満 女性:6.5g未満 |
高血圧の方 |
成人:6g未満 |
腎臓病患者 |
成人:3~6g未満 |
人工透析患者 |
成人:6g未満 |
WHO世界保健機関の食事摂取基準 |
成人:5g未満 |
WHOでは1日5g未満が強く推奨されています。しかし、そもそも日本食は塩分が多く含まれている傾向にあるため、健康な方であれば「厚生労働省による日本人の食事摂取基準」を参考にするとよいでしょう。
ここでは塩分の摂取量を減らすコツを紹介するので、減塩生活を始める方は参考にしてみてください。
1.うま味を利用する
塩分を抑えた食事は薄味になりやすく、人によっては味気がないと感じてしまうものです。美味しくなければ、食欲低下につながる恐れもあります。そこで、塩分の代わりに利用したいのが昆布や煮干し、かつおぶしなどから出る「だし」のうま味です。
うま味は、塩分が少なくても料理の味を引き立てるので減塩に有効です。うま味が感じられる料理は食品そのものの風味が強いので、満足感を得やすいところもポイントです。塩分の多い食事に慣れていると、最初は薄味が気になるかもしれません。そのときはだしを濃くすることで、うま味が感じやすくなります。
だしには市販されている顆粒タイプやパックタイプのものもあります。商品によっては塩分が含まれている場合もあるので、利用する際は塩分量を確認しましょう。
2.スパイスや酸味、薬味を使用する
塩分を抑えながら美味しく食べられるよう、アクセントのある風味を加えるのも方法の1つです。わさびや唐辛子、山椒、カレー粉、コショウなどのスパイスを用いると、味が引き締まり、塩分が少なくても気になりにくくなります。また、レモンや酢、ゆずといった酸味は塩の代用に使えるので、塩分を減らすのに有効です。
薬味をプラスするのもおすすめです。シソやみょうが、ねぎ、パセリ、セロリなどの香味野菜は、独特な食感と風味が特徴。よいアクセントとなり、塩分を控えていても美味しく食べられるでしょう。
3.加工食品を控えめにする
ハムやソーセージ、練り物、漬物などさまざまな加工食品には、保存性や美味しさを保つために、塩分が多く含まれています。加工食品は手軽に使えるので魅力的ではありますが、減塩生活を意識するなら控えるべきです。
食肉加工品(ハム・ベーコン・ソーセージなど)や練り物(かまぼこ・つみれ・ちくわなど)、缶・瓶詰め食品、冷凍食品、レトルト食品、インスタント食品ばかり食べている人は要注意です。
4.とろみを付ける
とろみのある料理は冷めにくいだけでなく、舌に残る時間が長くなるので、薄味でも満足しやすくなります。片栗粉を用いて餡かけにするのもよいですが、大根おろしをソースに絡ませるのもおすすめです。大根おろしの小気味よい食感も楽しめるでしょう。
5.外食時は、自分で塩分を調整できるものを選ぶ
いくら自宅で気を付けていても、外食する機会が多かったり塩分が多いメニューばかり選んでしまえば、努力が無駄になってしまいます。外食時も減塩を意識するようにしましょう。とはいえ、お店によって味付けは異なるので、塩分の含有量を把握するのは困難です。そこでおすすめなのが、自分で塩分が調整できるメニューです。
例えば、お寿司やとんかつ、餃子など醤油やソースを後付けできるメニューは、自分で塩分調整ができます。減塩タイプの調味料を持っておけば、さらに有効です。ほかにも、麺類のスープは飲み切らない、ソースやドレッシングの量を控える、お新香は断るなども減塩対策としておすすめです。
6.間食には果物を食べる
小腹が空いたときや、物足りないときには果物を食べるようにしましょう。果物は調味料を使わずにそのまま食べられるので、塩分の摂取量を増やさずに満腹感を得られます。
また、果物にはナトリウムを排出する作用がある「カリウム」が多く含まれています。正常な血圧を保つためにも、積極的に摂取したい食べ物です。
7.麺類のスープは残す
ラーメンやうどんといった麺類にスープは付きものです。最後まで飲み干したくなる気持ちも分かりますが、減塩生活を意識するなら、スープは飲まずに残すようにしましょう。
ラーメンで例えるなら、スープを飲み切った場合、塩分摂取量は5〜6gを超えてしまいます。厚生労働省による日本人の食事摂取基準が、男性7.5g未満・女性6.5g未満なので、ラーメン1杯で1日分の摂取基準に近づくこととなります。カップ麺も同じように、スープは飲み干さないよう心がけましょう。
8.ナトリウムを排出、吸収を防ぐ食品を食べる
減塩生活を心がけていても、ついつい食べ過ぎてしまうこともありますよね。そのようなときは、ナトリウムの排出や吸収を防ぐ作用をもつ栄養素を摂取しましょう。おすすめの栄養素は3つあります。
1つ目は「カリウム」です。カリウムは野菜や果物に多く含まれている栄養素で、ナトリウムを排出する作用があります。また血管を拡張させ血圧を下げる作用もあるため、高血圧の方にも嬉しい効果が期待できるでしょう。日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、1日のカリウム摂取の目安は男性3,500mg・女性2,600mgです。カリウムを多く含む食材を例にするとほうれん草(生)100gあたり690mg、アボカド100g当たり590mg、バナナ100gあたり360mg含まれています。1つの食材に偏らず、バランスよく摂取するのがポイントです。また、茹でたり煮たりするとカリウムは減少するので、調理方法にも工夫が必要です。生のまま食べる、蒸す、焼くといった形で食べるとよいでしょう。
そして2つ目は「カルシウム」です。カルシウムもまた、カリウム同様にナトリウムを排出する作用があります。魚介類や乳製品、大豆製品に多く含まれているので、意識して摂取するようにしましょう。
最後の3つ目は「アルギン酸ナトリウム」です。アルギン酸ナトリウムは水溶性食物繊維で、ナトリウムの吸収を防ぎ、便と一緒に排泄する作用があります。わかめや昆布、もずくなどの海藻のヌメリに含まれています。