認知症予防に大切な事|10か条、発症・進行を遅らせる
超高齢化社会の現代においても、残念ながら認知症を完璧に予防する事はできません。
ですが、近年の活発な研究により、認知症は生活習慣病と密接に関係しており、生活習慣を改める事で、その発症を抑える、遅らせる事が期待ができるのではないかと言われています。
生活習慣の改善は、食生活、運動、社会活動への参加など、多岐にわたっています。
この記事では、様々な専門家が提言する認知症予防の10カ条や12項目、認知症のリスク要因や、その予防対策などを解説します。
※認知症の症状や進行具合、その人それぞれの体質などにより、適した対策は異なります。
ここでの予防策は、一般的な対策事例や提言などを紹介しています。
認知症予防はいつもの生活習慣から
認知症は、獲得していた知的能力が、様々な要因によって低下し続け、認知機能の障害のために、社会活動が困難になる病気です。
認知症の代表的な種類は4つあり、「アルツハイマー型認知症」が認知症全体の60%を占めています。
その他には、「脳血管性認知症」、「前頭側頭型認知症」、「レビー小体型認知症」などがあります。
「アルツハイマー型認知症」は、アミロイドβ(ベータ)と呼ばれるタンパク質が、脳に蓄積する事によって神経細胞が死んでしまい、結果として脳が萎縮して機能が低下すると言われています。
アルツハイマー型の次に多い認知症「前頭側頭型認知症」は、脳卒中(脳梗塞や脳出血)などが原因となり起こるもので、高血圧や肥満、糖尿病といった「生活習慣病」が起因していると言われています。
このような事から、「生活習慣病」の予防対策が、認知症の予防にも効果的と言われています。
厚生労働省が定義する生活習慣病
厚生労働省は、「生活習慣病とは、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称。日本人の死因の上位を占める、がんや心臓病、脳卒中は、生活習慣病に含まれる。」と定義しています。
「生活習慣病」という用語は、1996年頃から使われるようになりました。
それ以前は、成人病と呼ばれていた疾患(脳卒中、がん、心臓病)を、生活習慣という要素に着目して捉えなおした用語です。
「生活習慣病」の範囲例
食習慣 | インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高尿酸血症、循環器病(先天性のものを除く)、大腸がん(家族性のものを除く)、歯周病等 |
---|---|
運動習慣 | インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高血圧症等 |
喫煙 | 肺扁平上皮がん、循環器病(先天性のものを除く)、慢性気管支炎、肺気腫、歯周病等 飲酒 アルコール性肝疾患等 |
WHOが推奨する認知症予防のための12項目
WHO(世界保健機関)は、2019年に、「認知機能低下および認知症のリスク低減(Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia)のためのガイドライン」を発表しました。
全部で12項目の事柄に言及し、詳細な内容、推奨度などが提示されています。
日本では、令和元年度に、日本語翻訳版が作成されています。
種類 | 内容 | エビデンス(根拠)の質 | 推奨度合 |
---|---|---|---|
身体活動によるアプローチ | 身体活動は、認知機能が正常の成人に対して、認知機能低下のリスクを低くするために推奨される。 | 中 | 強い |
身体活動は、軽度認知障害の成人に対して、認知機能低下のリスクを低くするために推奨しても良い。 | 低い | 条件による | |
禁煙によるアプローチ | 禁煙介入は、他の健康面の向上に加え、認知機能低下とリスクを低くする可能性があるため、喫煙している成人に対して行われるべきである。 | 低い | 強い |
栄養面へのアプローチ | 地中海食は、認知機能が正常、または軽度認知障害の成人に対して、認知機能低下やリスクを低くするために推奨してもよい。 | 中 | 条件による |
WHOの健康食に関する推奨に準拠して、バランスのとれた食事は、全ての成人に対して推奨される。 | 低い~高い(食事の成分による) | 強い | |
ビタミン B・E、多価不飽和脂肪酸、複合サプリメントは、認知機能の低下やリスクを低くするために推奨されない。 | 中 | (推奨しない度合いが)強い | |
アルコール使用障害へのアプローチ | 飲酒を減量、又は中断する事を目的とした介入は、他の健康面の向上に加え、認知機能が正常、又は軽度認知障害の成人に対して、認知機能の低下やリスクを低くするために行われるべきである。 | 中(観察研究による根拠) | 条件による |
認知的なアプローチ | 認知トレーニングは、認知機能が正常、又は軽度認知障害の高齢者に対して、認知機能の低下やリスクを低くするために行ってもよい。 | 非常に低い~低い | 条件による |
社会活動 | 社会活動と、認知機能の低下、リスク低減との関連については、充分な根拠は無い。しかし、社会参加と社会的な支援は、健康と幸福感に強く関係しており、社会的な関わりを持つ事は、一生を通じて支援されるべきである。 | ||
体重管理 | 中年期の過体重、または肥満に対する介入は認知機能の低下やリスクを低くするために行ってもよい。 | 非常に低い~中 | 条件による |
高血圧の管理 | 高血圧の管理は、現行のWHOガイドラインに従って、高血圧のある成人に対して行われるべきである。 | 低い~高い(アプローチの種類による) | 強い |
高血圧の管理は、高血圧のある成人に対して、認知機能の低下や、リスクを低くするために行ってもよい。 | 非常に低い(認知症の転帰に関して) | 条件による | |
糖尿病の管理 | 糖尿病のある成人に対して、内服や生活習慣の改善、又は両方で糖尿病の管理は現行のWHOの基準に従って行われるべきである。 | 非常に低い~中(アプローチの種類による) | 強い |
糖尿病の管理は、糖尿病患者に対して、認知機能の低下やリスクを低くするために行ってもよい。 | 非常に低い | 条件による | |
脂質異常症の管理 | 脂質異常症の管理は、脂質異常症のある中年期の成人において、認知機能の低下とリスクを低くするために行ってもよい。 | 非常に低い | 条件による |
うつ病への対応 | 現在のところ、認知機能の低下やリスクを低くするために抗うつ薬の使用を推奨する根拠は不十分である。 | ||
成人に対する抗うつ薬や心理療法を用いるうつ病治療は、現行の WHOの基準に従って行われるべきである。 | |||
難聴の管理 | 認知機能の低下やリスクを低くするために、補聴器の使用を推奨する根拠は不十分である。 | ||
WHO ICOPE ガイドラインで推奨されているように、難聴を適時に発見し治療するために、スクリーニングと、難聴のある高齢者への補聴器の提供が行われるべきである。 |
公益財団法人 認知症予防財団の「認知症予防の10カ条」
認知症や、日々の介護などの電話相談「認知症110番」など、認知症にまつわる様々な活動を行っている「認知症予防財団」も、「認知症予防の10カ条」を提言しています。
- 1.塩分と動物性脂肪を控えたバランスのよい食事を
- 2.適度に運動を行い足腰を丈夫に
- 3.深酒とタバコはやめて規則正しい生活を
- 4.生活習慣病(高血圧、肥満など)の予防・早期発見・治療を
- 5.転倒に気をつけよう 頭の打撲は認知症招く
- 6.興味と好奇心をもつように
- 7.考えをまとめて表現する習慣を
- 8.こまやかな気配りをしたよい付き合いを
- 9.いつも若々しくおしゃれ心を忘れずに
- 10.くよくよしないで明るい気分で生活を
認知症予防のために|リスク要因を知る
認知症を完全に防ぐ方法は、現時点では確率されていませんが、予防が期待されるポイントは、様々な角度から研究され、報告があがっています。
ここでは、認知症を発症させる恐れのある、リスク要因について解説します。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 喫煙
高血圧
血管をもろくさせ、動脈硬化を引き起こしやすくなる高血圧。脳の動脈が高血圧の影響を受けると、脳の深部にある細い血管がつまり、「脳梗塞」になる可能性が高まります。
その状態は、脳神経の活動を低下させ、認知症を発症、進行させてしまうリスクが高くなってしまいます。
糖尿病
糖尿病になると、血液中のブドウ糖が増え、血糖値が高くなります。その状態が続く事で、全身の血管の流れ(血流)が滞り、脳内の血管へも「つまり」等の影響を与える場合があります。
脳内の血管がつまる事で、脳の神経細胞が正常に働くための血液が行き渡らなくなり、認知症を発症するリスクが高まります。
脂質異常症
脂質異常症は、「動脈硬化」を招く症状です。動脈硬化になると、血管が硬くなり、血流が悪くなります。
脳の血管が動脈硬化によって硬くなると、やはり血液の流れが悪くなり、血液循環が滞ります。
脳を機能させるための血液が神経細胞へ充分に行き渡らないため、認知症の発症リスクが高まります。
喫煙
喫煙の作用で、体内では「酸化ストレス」が生じます。酸化ストレスは、身体にとってとても有害な作用で、動脈硬化を引き起こす要因となります。動脈硬化は、血流を滞らせるので、脳への影響も例外ではなく、脳血管障害を引き起こす等、認知症の引き金となってしまいます。
認知症予防のための生活習慣|運動、食べ物ほか
認知症に深い関係のある「生活習慣病」を遠ざけるため、普段の生活習慣を整える事はとても有効です。
ここでは、食事や運動など、様々な視点からの生活習慣の改善アイデアを解説します。
- 食習慣のポイント
- 適度な運動習慣・有酸素運動
- 積極的な社会参加
- 学習やパズル、手先を使う等の知的活動
※予防が期待できる行動・様式の紹介であり、必ず認知症を防げるという事ではありません。
食習慣のポイント
食生活で気をつけたい点は、「食材」と「食べ方」の2本の柱があげられます。
食材 | 塩分、糖分を摂りすぎない/抗酸化力の高い食品を摂る |
---|---|
食べ方 | バランス良く食べる/就寝前に食べ過ぎない/暴飲暴食を避ける |
必要以上に食べ過ぎない
全年齢でも言える事ですが、高齢者では特に、食べ過ぎに注意が必要です。 加齢と共に、運動量の低下や、身体の代謝能力の低下などから、生活に必要なカロリーは少なくなるためです。 必要以上に摂取したカロリーは、消費されずに肥満の元となってしまいます。
肥満、メタボリックシンドロームと認知症の関係性は、多くの専門家によって研究が進められており、論文も数多く発表されています。
どのような運動レベルで日々の生活を送っているかを表す「身体活動レベル」は3段階に分けられます。 >表にします 身体活動レベル1:座っての生活中心。ほとんど外出しない。 身体活動レベル2:座っての生活中心だが、買い物や家事、軽い運動はする。 身体活動レベル3:活発な運動習慣があり、生活の中でも立っている事が多い。
身体活動レベルが静的なほど、食べ過ぎによる余剰カロリーが増えてしまうので、注意しましょう。
就寝前、深夜に食べ過ぎない、暴飲暴食を避ける
深夜や就寝直前に食事を摂る、暴飲暴食をするのは、栄養の消費が出来ず肥満につながるだけでなく、胃腸などの身体の負担にもなります。
バランスの取れた食事を心がける
人間にとって大切な栄養素、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル等を適切に摂る事が、「バランスの取れた食事」と言えます。
何か一つの料理を食べ続けるのではなく、様々な食材を少しづつ、バランスよく摂取しましょう。
高齢になると、食べられる量自体が減ってくる事も、栄養バランスの偏りの元と言われています。 様々な食材を食べるほうが良いと分かっていても、そもそも分量があまり入らないのです。
特に不足する傾向にあるのが、タンパク質です。魚や肉、卵といったタンパク質は、健やかな身体には欠かせない栄養素です。
高齢になると、噛む力が衰えるため、タンパク質を含む食材を食べづらく感じ、避けてしまう方も多くみられます。
少量でタンパク質を多く含む機能性食品なども増えていますので、それらを利用して補うのも有効です。
塩分や糖分を摂りすぎない
塩分の摂りすぎは、高血圧の元となります。高血圧は、動脈硬化を進ませ、脳血管性認知症を発症させる要因となる可能性があります。
対策
- 塩や醤油のつけすぎに注意する
- 味噌汁は朝食に摂る
- 漬物の食べ過ぎに注意する
- 麺類のスープを飲み干さない
- 塩分を排出する働きのある海藻類、野菜などを食べる
糖分は、摂りすぎると血糖値が上昇します。血糖値の高い状態が続くと、脳の神経細胞にダメージを与える恐れがあります。
対策
- 食べる順番に気を付け、食事は野菜から食べる(血糖値の上昇を抑える働き)
- 食物繊維を多く含む野菜、キノコ類、海藻類を意識的に食べる
適度な運動習慣・有酸素運動
認知症の予防には、「有酸素運動」が良いと考えられています。
有酸素運動とは、身体を動かす際に、酸素を利用する運動の事を指します。
有酸素運動の反対、「無酸素運動」は、筋力トレーニングなどの、短時間に強い力を発揮する運動を指します。
有酸素運動の例 | ジョギング、ウォーキング、水泳、サイクリングほか |
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無酸素運動の例 | 筋力トレーニング、短距離走、投擲ほか |
運動習慣をつけると言っても、無理をしては身体に障りますし、続かなくなってしまいます。
- いつもは自転車で行っているスーパーに徒歩で行ってみる
- 動画配信などを利用して、短時間で出来る簡単な体操を実践してみる
- 地域で行われる体操教室に参加してみる
など、できる事から少しづつ取り組むと良いでしょう。
積極的な社会参加
高齢になり、家から出たり人と話すのが億劫、という方が多く見受けられます。
しかし、外へ出て人と会ったり、身近な施設へ出かけていくことは、脳にとって良い刺激を与え、認知症の予防にも良いとされています。
- 服装を整える
- 持ち物の準備
- 時間に合わせて家を出る等の計画・段取りを考える
など、少し外へ出るとなった場合でも、様々な順序立て、段取りなどで、脳を働かせる事ができます。
また、趣味を見つけたり楽しんだり、人と会話する事で気分もはれたりと、社会とかかわる事で心身共に良い刺激をもらえます。
様々な社会活動の例
- 地域の清掃活動に参加する
- 週に1回、デイサービスに通う
- 図書館に行き、読書
- シルバー人材センターに登録し、得意分野や経験を活かす
- 地域のオレンジカフェ(認知症カフェ)に行き、交流を楽しむ
- 料理教室に通ってみる
など
学習やパズル、手先を使う等の知的活動
思考や動作など、脳を使った知的な活動が、認知症の予防に良いと考えられています。 具体的には、
- パズルやゲーム
- 学習
- 楽器演奏
- 読書
- 日記など文章を書く
- 絵を描く
などが挙げられます。
農作業や料理なども、手先を使いつつ、段取りや実行など思考部分で脳を働かせるので、予防に有効と考えられています。
作物が出来た、料理が出来て食べて美味しかった、喜ばれた等の達成感もあるため、心身共に良い活動と言えます。
充分な睡眠・質の良い睡眠を取る
質の良い睡眠をとる事も、認知症予防に勧められています。
脳の中に必要のない老廃物がたまり、認知症を引き起こす場合があります。
このような脳内の老廃物を排出するには、充分な睡眠が重要だと考えられています。
充分な睡眠時間は、1人1人の体質にもよりますが、睡眠時間のみでなく、質についても気を付ける必要があります。
浅い眠りでは、心身の疲労は充分に取ることが出来ず、脳内の掃除もうまく機能しない可能性が高まります。
質のよい睡眠を保つポイント
- 就寝環境を整える(室温・照度)
- 午前中に日光を浴びる
- 入床・覚醒時刻を規則正しく整える
- 食事時刻を規則正しく整える
- 昼寝を避ける/日中にベッドを使用しない
- 決まった時刻に身体運動する(入床前の4時間以降は避ける)
- 夕刻以降に過剰の水分を摂取しない
- アルコール・カフェイン・ニコチンの摂取を避ける
- 痛みに充分対処する(気づかれていないことも多い)
- 認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害剤)の午後以降の服薬を避ける
重要なのは普段の生活習慣、早期発見、早めの予防対策
認知症の予防に、絶対の決まりはありません。
それだけに、何から始めて良いのか迷う事も多いかもしれません。
まずは自身が出来る所から、楽しめる、続けられそうな事から始めるのが良いでしょう。
きちんとしなければ、何かしなければと思い過ぎるのも、心身の負担になってしまいます。
定期的に発行されている、市区町村の広報誌を見て、興味の持てそうな趣味の活動を見つけるのも良いでしょう。
多くの場合、地域センターにも多数の情報が掲示されています。
食事、運動、社会活動、睡眠など、日々の生活の中で、無理せず取り入れやすい事から始めてみましょう。
参考文献
WHO「認知機能低下および認知症のリスク低減」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20200410_theme_t22.pdf#search='認知機能低下および認知症のリスク低減
公益財団法人 認知症予防財団「認知症予防の10カ条」
https://www.mainichi.co.jp/ninchishou/yobou.html
公益財団法人 健康・体力づくり事業財団「認知症予防はカラダづくりから!」
https://www.health-net.or.jp/syuppan/leaflet/pdf/ninchiyobou.pdf
厚生労働省 e-ヘルスネット「生活習慣病とは?」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-001.html#:~:text=生活習慣病とは、食事や運動、休養、,病に含まれます。
第49回日本理学療法学術大会 抄録集・日本の高齢者におけるメタボリックシンドロームと認知機能との関係
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2013/0/2013_1469/_article/-char/ja/
厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の睡眠」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html