高血圧の治療薬(降圧薬)について詳しくなろう
目次
高血圧の治療について
高血圧の治療は、まず食生活の改善や減量、運動、節酒や禁煙といった生活習慣の改善を行います。このような非薬物療法を行っても高血圧が改善されない場合、薬物療法が必要になってきます。
血管は痛みを感じないため、高血圧自体に症状はありません。しかし、高血圧は、ある日突然、私たちの命を奪ったり、重大な障害を残したりすることがあるのです。例えば、高血圧は脳・心臓・腎臓などの臓器に悪影響を及ぼし、臓器障害や糖尿病などの合併症を引き起こします。
高血圧が原因となる病気のリスクを減らすために、薬物療法が必要です。薬物療法を開始するタイミングは、臓器障害や合併症の有無、年齢などを総合的に考慮したうえで、医師が判断します。もちろん、薬物療法だけでなく、非薬物療法の継続も重要です。
高血圧の治療薬(降圧薬)の仕組み
高血圧の治療薬は降圧薬が中心となります。降圧薬とはその名前の通り、高すぎる血圧を下げるために処方される薬です。降圧薬は高血圧薬、あるいは、降圧剤とも呼ばれています。
降圧薬には多くの種類があるため、患者さんの状態、および、その他の病気の有無に合わせて処方されます。降圧薬の主な作用は以下の5タイプに分かれています。
- 血管に直接、作用することによって血圧を下げるもの
- 心臓に作用し、送り出す血液量を減らすことによって血圧を下げるもの
- 尿量を増やし、体内の血液量を減らすことによって血圧を下げるもの
- 自律神経に作用し、血管の収縮を抑えることによって血圧を下げるもの
- 血圧を上げる物質を血管から減らすことによって血圧を下げるもの
降圧薬の中には、高血圧以外にも持病がある患者さんには使えないものや、使用するタイミング・量を慎重に確認しなければならないものも存在します。そのため、薬を処方してもらう前に必ず、病歴やこれまでの健康状態、自分が現在抱えている病気について、医師にしっかりと伝えるようにしてください。
降圧薬の種類について
日本で主に使用されている降圧薬は以下の9種類です。
- カルシウム拮抗薬
- ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
- ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
- 利尿薬
- α1(アルファワン)遮断薬
- β(ベータ)遮断薬
- 中枢性交感神経抑制薬(中枢性α2アゴニスト)
- アルドステロン拮抗薬
- 直接的レニン阻害薬
各種類について、以下で解説します。
カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬は、血圧を下げる効果が確実であり安全性も高いため、最もよく使われている降圧薬のひとつです。
血圧は心臓や血管が収縮する時に上昇します。カルシウムイオンが血管平滑筋の細胞内に流れ込むと血管の収縮を促すため、カルシウム拮抗薬によってそれをブロックします。血管収縮を防いで血管を拡張を促すことにより、血圧を低下させます。
カルシウム拮抗薬の主な薬品名は以下の通りです。
- ジルチアゼム
- アダラート
- セバミット
- カルスロット
- アゼルニジピン
- ランデルノルバスク
- アムロジン
- ニフェジピン
- シルニジピン
- ヘルベッサー
- バイミカード
- バイロテンシン
- ニバジール
- カルスロット
- アテレック
- カルブロック
- コニール
カルシウム拮抗薬の副作用としては、血管の拡張に伴う頭痛、顔のほてり、下半身のむくみ、反射性の頻脈や動悸、便秘などがみられます。
カルシウム拮抗薬の使い方は薬の種類や量によっても異なりますが、基本的に1日1~3回、食後に服用します。服用回数が1日1回の場合、基本的には朝食後に服用を指示されます。
ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
血圧を上昇させるホルモンである「アンジオテンシンⅡ」の産生を抑止する効果を持つ降圧薬です。降圧効果はカルシウム拮抗薬と比較すると弱めです。
「アンジオテンシンⅡ」は血管を収縮させるほか、腎臓で水分やナトリウムの排出を抑えて血液の量を増やす働きがあり、血圧上昇を招きます。「アンジオテンシンⅡ」はアンジオテンシン変換酵素(ACE)によって「アンジオテンシンⅠ」から作られるため、ACEの働きを阻害することによって血管を拡張し、血圧を下げます。
ACE阻害薬の主な薬品名は以下の通りです。
- エナラプリル
- セタプリル
- ゼストリル
- タナトリル
- エースコール
- レニベース
- カプトプリル
- トランドラプリル
- アデカット
- ロンゲス
- イミダプリル
- アデカット
- チバセン
- コナン
- オドリックプレラン
- コバシル
ACE阻害薬の副作用として、空咳やのどの違和感、高カリウム血症、血管浮腫などがみられます。
ACE阻害薬の使い方は薬の種類や量によって異なりますが、基本的に1日1回、朝食後に服用します。
ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
上記で解説したホルモン「アンジオテンシンII」が、その受容体と結合して血圧を上昇させる作用を抑えることによって血圧を下げる降圧剤です。上のACE阻害薬と似ていますが降圧効果は比較的強く、臓器を保護する作用があり、副作用が比較的少ないという違いがあります。
ARBの主な薬品名は以下の通りです。
- ロサルタン
- ミカルディス
- カンデサルタン
- ディオバン、
- バルサンタン
- ブロプレス、
- テルミサルタン
- オルメサルタン
- ニューロタン
- オルメテック
- イルベタン
- アバプロ
ARBの副作用として、軽い動悸、めまい、高カリウム血症、血管浮腫などがみられます。
ARBの使い方は薬の種類や量によって異なりますが、基本的には1日1回、服用します。
利尿薬
利尿薬は、腎臓に作用してナトリウムと水分の排泄を促すことにより、血液量を減らして血圧を下げる降圧薬です。古くから治療に使われており、高血圧だけでなく、心不全やむくみなどの症状にも使われています。降圧効果は比較的弱めです。
利尿薬の主な薬品名は以下の通りです。
- ナトリックス
- フロセミド
- アルダクトン
- ヒドロクロロチアジド
- クロルタリドン
- フルイトラン
- ラシックス
- スピロノラクトン
- ルプラック
利尿薬の副作用には、高脂血症(脂質異常症)、脱水・低カリウム血症、耐糖能低下や糖尿病、高尿酸血症、痛風、低カリウム血症などがあります。
利尿薬の使い方は薬の種類や量によって異なりますが、基本的に1日1回、朝食後に服用します。
α1(アルファワン)遮断薬
α1遮断薬は、自律神経(交感神経)のα受容体に作用し、血管の収縮を抑えつつ血管を拡張することによって血管抵抗を下げ、血圧を下げる降圧薬です。強い降圧作用があるだけでなく、糖・脂質の代謝や前立腺肥大にも良い影響を与えるとされています。
α1遮断薬の主な薬品名は以下の通りです。
- カルデナリン
- α遮断薬
- デタントール
- エブランチル
- ハイトラシン
- バソメット
- ミニプレス
α1遮断薬の副作用として、起立性低血圧(立ちくらみ)、めまいなどが知られています。
α1遮断薬の使い方は、基本的に1日1回、朝に服用します。最初は少量から服用を開始し、効果の様子を見ながら定期的に服用量の見直しが行われます。
β(ベータ)遮断薬
β遮断薬は、α1遮断薬と同様に自律神経に働きかけて血管の収縮を抑えたり、心臓から送り出される血液量(心拍出量)を減らしたりすることによって血圧を下げる降圧剤です。β遮断薬は、頻脈や心不全、狭心症や虚血性心疾患の合併症がある人や心筋梗塞の発症後も服用できます。降圧効果は中程度です。
β遮断薬の主な薬品名は以下の通りです。
- テノーミン
- インデラル
- β遮断薬
- αβ遮断薬(カルベジロール)
- メインテート
- ロプレソール
β遮断薬の主な副作用は抑うつ、不眠、倦怠感、脈拍数が少なくなる、手足の冷え、糖脂質代謝の悪化などです。
β遮断薬の使い方は、基本的に1日1回、朝に服用します。
中枢性交感神経抑制薬(中枢性α2アゴニスト)
中枢性交感神経抑制薬は、末梢血管を収縮させる自律神経に作用して血圧を下げる降圧剤です。他の降圧剤が使えない場合や、複数の降圧剤を併用しても血圧のコントロールが困難な場合に選択されます。
中枢性交感神経抑制薬の主な薬品名は以下の通りです。
- メチルドパ
- カタプレス
- クロニジン
- ワイテンス
- グアナベンズ
- アルドメット
中枢性交感神経抑制薬の主な副作用として、倦怠感や立ちくらみ、眠気、口の渇き、勃起障害などがあります。
中枢性交感神経抑制薬の使い方は、基本的に1日3回、食後に服用します。重症の場合、1回4錠が処方されることもあります。カタプレスは患者さんの自己判断で急に服用を中止すると血圧が急上昇するおそれがあるため十分に注意してください。
アルドステロン拮抗薬
アルドステロン拮抗薬はカリウム保持性利尿薬の一種であり、副腎で生成されるホルモン「アルドステロン」が血圧を上げる働きを抑制することによって血圧を下げる降圧薬です。心不全にも効果を発揮します。降圧効果は弱めです。
アルドステロン拮抗薬の主な薬品名は以下の通りです。
- エプレレノン
- スピロノラクトン
- トリアムテレン
アルドステロン拮抗薬の副作用として女性化乳房やめまい、ふらつきなどが知られています。
アルドステロン拮抗薬の使い方は症状や年齢などにより異なりますが、基本的に2~4錠(50~100mg)を1日数回に分けて服用します。
直接的レニン阻害薬
直接的レニン阻害薬は、上記の「アンジオテンシンII」産生を促す酵素であるレニンの働きを妨げることによって血圧の上昇を防止する降圧薬です。
直接的レニン阻害薬の主な薬品名は以下の通りです。
- ラジレス
- アリスキレン
直接的レニン阻害薬の副作用は頭痛やめまい、下痢や吐き気などです。まれに腎機能障害が出ることもあります。
直接的レニン阻害薬の使い方は、薬の種類や量によって異なりますが、ACE阻害薬やARBとの併用には注意が必要です。
高血圧治療のQ&A
ここでは、患者さんからよく寄せられる4つの疑問についてお答えします。
- Q.なぜ何種類も飲む必要があるの?
- Q.血圧が高いときだけ飲めばいい?
- Q.飲み忘れたときはどうすればいい?
- Q.海外赴任になった場合どうする?
Q.なぜ何種類も飲む必要があるの?
1種類だけでは降圧目標を達成できない場合があり、2〜3剤の併用が必要なケースも少なくないためです。降圧薬は基本的に1種類の処方から始まりますが、降圧効果が十分に得られない場合は増量するか、他の降圧薬を併用することになります。
高血圧治療ガイドラインに、降圧剤の組み合わせにおける推奨パターンが記載されています。以下が推奨される組み合わせです。
- カルシウム拮抗薬とARB
- カルシウム拮抗薬とACE阻害薬
- カルシウム拮抗薬と利尿薬
- ARBと利尿薬
- ACE阻害薬と利尿薬
- ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ジルチアゼム)とβ遮断薬
- 利尿薬とβ遮断薬
- 利尿薬とα1遮断薬
- β遮断薬とα1遮断薬
特定の降圧薬を多く服用すれば副作用が起こるリスクも増えるため、作用が異なる複数の降圧薬を併用することにより、それを回避しながら降圧を目指すという目的もあります。
薬の種類が増えるデメリットの1つは費用が増えることですが、ジェネリック医薬品を活用すれば薬代の負担を減らすことも可能です。
Q.血圧が高いときだけ飲めばいい?
降圧薬は医師の処方に従って服用しなければなりません。一時的に血圧が下がったとしても、自己判断で服用を中止すれば、血圧は再び上がってしまいます。血圧の上下が続くと血管に傷が付きやすくなり、合併症などのリスクが高まります。
薬を飲み続けることに不安を感じる患者さんもいるでしょう。できるだけ薬を飲まずに健康でいられたら良いという人は多くいます。
しかし、現在まで薬以外の方法で血圧を下げる多くの試みがなされてきたものの、いずれも確実な効果を裏付けるだけのデータは得られていません。生活習慣の改善など、薬を使わない方法を用いて目標値以下の降圧に成功するなら、それでも良いでしょう。しかし、その方法で血圧が下がらない場合は、降圧薬を活用して血圧を下げたほうが、健康に生活できる可能性が高くなるのです。
Q.飲み忘れたときはどうすればいい?
降圧薬を飲み忘れたときは医師に相談しましょう。ただし、基本的には、以下の対応をしてください。
- 1日1回服用するタイプの薬:
飲み忘れに気付いたとき、すぐに服用します。
- 1日2回(朝・夕)服用するタイプの薬:
朝の分は本来の服用時間から3時間以内なら気付いたときに服用してください。その後、夕方の分は、朝に遅れた時間の分、ずらして服用します。翌朝の分は服用時間をずらす必要はありません。
- 1日3回服用するタイプの薬:
1~2時間程度の遅れであれば服用します。それよりも遅くなってから気付いた場合は服用せず、飛ばしてください。
Q.海外赴任になった場合どうする?
国内で高血圧の治療を受けている患者さんに海外赴任の話が出た場合は、まず、海外赴任の適不適の判定を医師に判断してもらってください。原則として、赴任するまでに血圧が適性にコントロールされていることが前提となります。
また、現地に適切な医療機関があるかを確認する必要があります。ない場合は、定期的に血圧を測定して国内にいる主治医に報告し、指示を仰がなければなりません。
それから、赴任先で必要な薬剤を入手できるかどうかも確認してください。有効成分が同じ薬剤が現地にある場合は、 主治医に相談し、紹介状や処方箋をもらっておくと良いでしょう。現地で降圧剤を全く入手できない場合は、日本から携行する必要があります。
その他、血圧の状態や症状などで不安になり、医師に相談したくなるケースも出てくる可能性があります。海外にいながら日本語で医療相談をする方法として、オンライン治療も有効に活用しましょう。